助産師の声明・綱領
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Ⅰ 助産師の定義
【助産師】とは、法に定められた所定の課程を修了し、助産師国家試験に合格して、助産師籍に登録し、業務に従事するための免許を法的に取得した者である。
助産師は、女性の妊娠、分娩、産褥の各期において、自らの専門的な判断と技術に基づき必要なケア(※1) を行う。すなわち助産師は、助産過程に基づき、分娩介助ならびに妊産褥婦および新生児・乳幼児のケアを行う。これらのケアには予防的措置や異常の早期発見、医学的措置を得ることなど、必要に応じた救急処置の実施が含まれる。さらに、助産師は母子のみならず、女性の生涯における性と生殖にかかわる健康相談や教育活動を通して家族や地域社会に広く貢献する。その活動は育児やウイメンズ・ヘルスケア活動(※2)を包含する。助産師は、病院、診療所、助産所、市町村保健センター、自宅、教育、研究機関、行政機関、母子福祉施設、その他の助産業務を必要とするサービスの場で業務を行うことができる。
Ⅱ 助産師の理念
人間の生命には、各人の限りある生命と、親から子、子から孫へと受け継がれる生命がある。助産師は、女性とそのパートナーの生命、生まれ来る子どもの生命、そして子どもが親になることへの萌芽に関与する。
人間の生命にかかわる助産師は、その根底において、人間を愛し生命を尊ぶ者である。女性と子どもの生命の尊重とともに、その生命を支える他者の生命への畏敬、そして生命にかかわることの責任感を片時も忘れない。さらに、生命の意味を探求し続け、これに寄与することに最大限の努力を惜しまない。
以上の信念を行動で示すことのできる者が助産師である。
助産師は、自然性を尊重する。
助産にとっての自然性とは、科学・技術の進歩に伴って生じた人為的介入に相対する概念である。自然性を尊重した助産とは、人が本来もつ生理的・精神心理的機能を尊重し、専門的知識や経験、人的・物的資源、身体的・心理社会的サポートなどを活用しながら、女性と子どもおよび家族が本質的にもっている能力を最大限に発揮させる行為である。その行為の結果、健康(※3)を維持・増進することである。健康な生理現象において人為的介入が許されるのは、自然性が損なわれず、自然との調和を保ちうる場合であり、助産においても例外ではない。
助産師の活動の対象となる人間や環境および生命現象に対して、専門的立場から寄せる知的好奇心、関心を「智の尊重」という。智とは、感性と知性をつなぐものであり、物事を理解し、是非や善悪を判断する心の働きである。
生命の意味を追求し、自然性に目を向ける助産師にとって必要なのは、感性(※4)と知性(※5)の統合である。本来、両者は2つに分けられるべきものではなく、互いに関係しあい、高めあうものである。助産師が、何かに失敗したと感じたり、自信を失いかけたりしたときにも、この智の尊重の精神があれば、新たな道を創造する勇気と情熱をもつことができる。
知性には、経験的知識と科学的知識が存在する。経験的知識は、女性と子どもおよび家族と直接かかわり、的確な技術を身につけることによって蓄積される。科学的知識は、学問や研究を通して得られ、両者は相互に関連し統合されて、助産師の感性を高める。それは、助産師全体の専門性の進歩と水準の向上に寄与する。この知性は、女性と子どもおよび家族の利益にも大きく影響する。
(※1)ケア
助産師が、その技である手技や言葉を用いて、利用者の心身の安全・快適さを保つために行う行為。
(※2)ウィメンズ・ヘルスケア活動
リプロダクティブヘルス/ライツの視点から見た女性のライフステージに対応した健康支援活動である。具体的には、思春期におけるケア、中高年におけるケア、リプロダクティブヘルスにおける活動が含まれる〔家族計画、不妊の悩みをもつ女性へのケア、性感染症、月経障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)等〕。
(※3)健康
女性と子どもおよび家族が、潜在力を十分に発揮することにより、身体的・精神的・心理社会的ニーズを満たした状態である。健康は最良の状態から健康障害までの連続体であり、ライフサイクルや生殖の過程の諸段階における環境との相互作用によって変化する。健康は、生物学的因子のみならず、社会、文化、経済、政治の影響を受ける。
(※4)感性
助産師が、対象となる人間や事物および生命現象から印象を受け、その印象を通して価値ある意味を感じ取る能力。
(※5)知性
助産師が、思考し判断する能力。
Ⅲ 助産師の倫理綱領
助産師が関与するすべての活動、すなわち助産師の実践、教育、研究の統一指針として、以下の倫理綱領を宣言する。この倫理綱領は、生命の尊重・自然性の尊重・智の尊重という助産師の理念を行動として具体化するにあたり、助産師が遵守しなければならない道徳的な義務を示すものである。 この綱領をもって、助産師は、対象となるすべての女性と子どもおよび家族を尊重し、敬愛と信頼に基づく相互関係を基盤として活動することを、広く一般社会の人びとに向けて宣誓する。
【助産師は、女性と子どもおよび家族の生命、人間としての尊厳と権利を尊重する。】
助産師は、すべての女性と子どもおよび家族の生命にかかわり、各人の健康と生活を支える保健医療専門職の一員である。 助産師は、すべての女性と子どもおよび家族が、人間としての尊厳と権利が尊重され、いかなる場合でも生命および生活の質が保証されるよう、知性と感性をもってケアを行う。 また助産師は、アドボカシー(ケア対象者の擁護)の立場から、女性と子どもおよび家族の健康に影響を与える倫理的問題と人権侵害をなくすように働きかける。
【助産師は、女性と子どもおよび家族に対して、国籍、人種、宗教、社会的地位、ライフスタイル、性的指向などによる何らの差別を設けずに、平等にケアを提供する。】
すべての女性と子どもおよび家族は、平等にケアを受ける権利をもっている。ここでいう平等とは、単に等しく同じケアを提供することではなく、その人の価値観やニーズを尊重し、それに応じたケアを提供することである。助産師は、女性と子どもおよび家族にケアを行う際に、個々人の習慣や文化的・社会的背景に基づく価値観とニーズに応じたケアを提供する。
【助産師は、女性と子どもおよび家族にとって最善のケアを提供する。】
助産師は、専門職としての良心に基づき、あらゆる環境において女性と子どもおよび家族に最善のケアを提供する。最善のケアとは、対象者にとって安全で快適であり、かつ人間としての尊厳と権利を尊重したケアのことをいう。最善のケアを提供するために、助産師は、各自の専門的知識と技術を最大限に活用するとともに、他の専門職と協働してより良いケアを提供する。
女性と子どもおよび家族のニーズが助産師の責任範囲や対処能力を超えている場合は、助産師は適切な医学的措置、精神的、心理社会的、経済的支援を得られるよう働きかける。
【助産師は、女性と子どもおよび家族との間に信頼関係を築きつつケアを提供する。】
助産師によるケアは、対象となる女性と子どもおよび家族との間に信頼関係を築きながら行われる。助産師は、常に、ケアを受ける人びとと共にあり、それらの人びとのために働くという自らの存在意義を自覚し、女性と子どもおよび家族に対して誠実に対応する。同時に、女性と子どもおよび家族によって示される信頼を受け止め、それをケアに反映して、相互の間に信頼関係を深めるよう努める。
【助産師は、女性と子どもおよび家族の知る権利と自己決定する権利を尊重するとともに、女性と子どもおよび家族が自ら選択した結果に対する責任を引き受けることを支援する。】
助産師は、女性と子どもおよび家族をエンパワーメント(※6)する立場として、女性と子どもおよび家族に、有益で専門的な情報を提供し、十分な情報に基づいて女性が選択する権利を支援する。また、助産師は、女性と子どもおよび家族が自らのケアに関する決定に積極的に参加する権利を支持する。 さらに助産師は、女性と子どもおよび家族が自ら選択した結果に対する責任を引き受けることを支援するとともに、それぞれの文化や社会において女性と子どもおよび家族の健康に影響を与える問題に対して、自ら意思を表明することを援助する。
【助産師は、個人のプライバシーを守るために、女性と子どもおよび家族に関する情報の保護を遵守する。】
助産師は、女性と子どもおよび家族のプライバシーを守るために、女性と子どもおよび家族に関する情報の保護を遵守する。
ケアを行う際に他の保健医療従事者と情報を共有する場合には、適切で慎重な判断に基づいて行う。
【助産師は、自己の決定と行動に対して責任をもち、さらに、女性と子どもおよび家族へのケアに関する説明責任を有する。】
助産師は、価値をもつ人間として、また専門職としての倫理観を備えた存在として自己に対する責任をもつものであり、女性と子どもおよび家族に対して、自ら行うケアもしくは自らケアを行わない決定と行動について、相手が理解できるように説明する責任を負う。
助産師は、道徳的に強い抵抗を感じる活動への参加を拒否することができる。ただし、助産師個人の良心を重視することによって、女性と子どもおよび家族から基本的な保健サービスを受ける権利を奪ってはならない。
【助産師は、実践、教育、研究に従事して、助産業務に関する専門的知識や技術を発展させる。】
助産師は、助産に関する知識と技術の改善と開発が、女性と子どもおよび家族の有する権利の保護と促進につながることを理解し、助産に関する実践、教育、研究に従事する。
助産師は、人格を陶冶し専門職としての実践能力の向上を目指し、助産実践や助産研究、ならびに助産師としての生涯教育に参画する。また助産師は、助産師学生の教育ならびに後継者の育成を積極的に行い、助産師の専門的能力の伝達・習得のための支援をする。
【助産師は、専門職として職能団体を組織し、職業の水準を検討し、会員が提供する業務の質を利用者に保証する社会的責務を負う。】
助産師は、専門職能団体を通して常に新しい科学技術に関する知見を取り入れ、会員各自の業務の改善・向上を図る。 助産師は、専門職能団体が採択した業務基準やガイドラインに従って自己評価を行い、業務の水準を維持する連帯責任を負う。また、一定期間ごとに相互評価を行い、全会員が相互に業務の質を利用者に保証する。
公益社団法人日本助産師会は、助産専門職能団体として、その会員により業務基準が時代に適合したものであるように適時検討し、必要に応じて改定し、会員相互にこの基準遵守に努める。
助産師の利用者である女性と子どもおよびその家族に助産ケアの質を保証するとともに、ケアを必要とする全ての利用者に必要なケアが提供できるように、立法府・行政省庁に政策提言を行う。また、他の専門職と協働して必要とされるケアの提供につとめる。
【助産師は、女性と子どもおよび家族の健康を増進する保健政策の策定と実施に参画する。】
助産師は、女性と子どもおよび家族とともに、司法・立法・行政の諸機関と連携を図り、女性と子どもおよび家族の健康を増進する保健政策の策定と実施に参画する。その目的は、保健サービスに対する女性と子どもおよび家族のニーズを明確にし、ニーズに合わせて適正にサービスが行きわたるように、公的資源の公正配分を保証することにある。
【助産師は、助産師自身の健康保持・健康増進に努める。】
助産師は、専門職としての役割を十分に果たすため、自己の身体的・精神的・心理社会的な健康を保持・増進する。
さらに、助産師は、助産師相互の支援と支持を図りつつ、共に働く助産師の健康維持と健康増進に努める。
(※6)エンパワーメント
自らの可能性を自覚し、発揮してゆく過程を支援すること。
Ⅳ 助産師の役割・責務
妊娠期、分娩期、産褥期、乳幼児期のケアにおける役割・責務
助産師は、妊娠期、分娩期、産褥期、乳幼児期における、母子および家族のケアの専門家である。よって、全期を通じて母子および家族に必要なケアを提供する。自己の責任のもとに正常な分娩を介助し、新生児および乳幼児のケアを行う。支援にあたっては、女性の意思や要望を反映できるように、支援計画・実施・評価を行い、ケアの向上に努める。
また、異常の発生や異常徴候の出現時を速やかに予測・発見し 医師や他の専門職と協働してケアを行う。
【妊娠期のケアにおける役割・責務】
助産師は、安全で満足される出産体験につながるような妊娠期の診断とケアを行う。妊娠確定の診断、妊娠経過の診断を行い、母子および家族の健康管理を支援する。 具体的には、健康診査の実施により母子の健康状態に関わる妊娠経過のアセスメントを行い、正常を維持できるように、女性と共にケア計画を立て実施する。また、母子および家族が心身共に安定を保ちながら日常生活を営み、親となる準備が整えられるように、コミュニケーション、カウンセリングの技法を用いて、相談、教育、支持等の支援を行う。
【妊娠期のケアに必要な能力】
1.1 妊娠の診断を行う。
問診/聴診/基礎体温法/試薬を用いての免疫学的妊娠反応/双合診/超音波断層法など
1.2 妊娠時期ならびに妊娠経過の診断を行う。
母体の健康状態(問診、外診、計測診、内診)/胎児の健康状態(聴診、触診、超音波断層法)/臨床検査(血液検査、尿検査、血圧測定、性感染症検査)
1.3 女性の心理的・社会的側面の診断を行う。
妊娠中の情緒状態/母性行動/性意識・性行動の変化/家族や他のサポートネットワーク/生活環境・健康習慣/職業/ドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待のリスク要因
1.4 安定した妊娠生活の維持に関する診断と、女性の意思決定や意向を考慮した日常生活上のケアを行う。
女性のセルフケア能力のアセスメントと能力に応じた支援/健康状態に応じた健康の維持・増進・予防的ケアと逸脱状況に応じたケア/健康逸脱徴候のアセスメント/地域の社会資源の紹介
1.5 女性やパートナー・家族に対し出産準備の支援を行う。
出産準備教育の企画・実施・評価/親準備教育の企画・実施・評価/バースプラン作成などの支援
1.6 妊娠経過に伴う正常からの逸脱徴候が発見されたら、医師や他の専門職と協働して正常の妊娠経過をたどることができるように支援を行う。
1.7 流早産、胎児異常、子宮内胎児死亡などにより精神心理的危機に陥った女性とその家族へのケアを行う。
【分娩期のケアにおける役割・責務】
助産師は、分娩進行状態の診断を行い、分娩進行に応じて適切な助産技法を活用して、母子共に安全で、かつ女性とその家族が納得のいく出産体験ができるよう支援する。また、いかなる分娩の場においても、女性がもつ自然の力を最大限に発揮できるように支援する。助産師は、具体的には、適時適切な言語・非言語的な心理的サポート、リラクゼーションや、マッサージ法・圧迫法、胎児娩出の介助、会陰保護等の身体的ケア、出生直後の新生児の呼吸確立への援助などを行う。また、分娩後に女性と共に出産体験を振り返る。
さらに、異常が予測される場合、あるいは異常発生時には適切な判断と介入(救急処置を含む)を行い、医師あるいは医療機関と速やかに連携し、母子の安全を確保する。
【分娩期のケアに必要な能力】
2.1 分娩の開始ならびに分娩進行の診断を行う。
問診/分娩開始徴候のアセスメント/妊娠経過などによるアセスメント/身体的診査(外診、胎児心音聴取部位、触診による子宮収縮の測定など)/全身の変化(発汗、表情、言動、姿勢など)/内診(子宮口開大度、展退度、先進部、胎児下降度、回旋、胎胞の有無、子宮口の位置・硬さ、胎児と産道の適合状態など)/胎児心拍の性状・胎動・分娩監視装置のデータの判読など。
2.2 母子の健康状態の診断を行う。
産婦の身体的状態・精神状態(情緒的変化)・産痛に対する対処行動/胎児心拍の性状・胎動・分娩監視装置のデータの判読/超音波診断(羊水量・胎児の大きさの推定・胎盤付着部位)など
2.3 母子とその家族の分娩進行に伴うケアを行う。
基本的ニーズ(栄養、排泄、休息、清潔など)の充足と快適さ/産痛の緩和と安楽の/分娩進行の促進/医学的処置の情報提供と女性の選択に基づいた対応/家族への支援/女性と家族の出産体験への支援
2.4 自然な経腟分娩の介助を行う。
産婦の意思・主体性を尊重/女性およびその家族と協働/緊急事態に対処できる体制の整備
2.5 分娩後、母子の早期接触を支援する。
2.6 分娩進行に伴う母子の異常発生予防と早期発見を行う。
2.7 異常発生時の判断と臨時応急の手当てを行う。また、女性とその家族へ説明を行いながら、『助産所業務ガイドライン』(公益社団法人日本助産師会)に基づいて、連携医療機関への搬送の必要性を判断し適切に行動する。
2.8 産婦と分娩の振り返りを行い、産婦の出産体験がより前向きにとらえられるように支援する。
【産褥期のケアにおける役割・責務】
助産師は、女性が母親としての自立を図ることができるように、身体的・精神的・心理社会的への適応と新しい体験への支援を行う。また、母子関係・家族関係の絆を深めることができるように個々の家族への支援を行う。さらに、分娩後の退行性変化(6週間~8週間程度)と進行性変化に関する経過の診断とケアを行いながら女性および家族のセルフケア能力を高めるよう支援し、育児技術の指導や母乳育児を含めた健康管理の支援を行う。
【産褥期のケアに必要な能力】
3.1 産褥経過の診断を行う。
問診・外診による生理的変化の診断(退行性変化:子宮復古状態、悪露の性状・量、外陰部・肛門の状態/進行性変化:乳腺の発育状態、乳房・乳頭の状態、母乳分泌状態、授乳状態、 授乳に関するトラブル発生の有無など)/問診による心理・社会的状態の診断(家族の健康状態、経済状態、人間関係、生活環境、生育歴、現在の精神状態、分娩経過の受容など)
3.2 産褥期の退行性変化(子宮の復古など)・進行性変化(乳房の変化など)を促し、褥婦のセルフケア能力を高め、育児の基本が習得できるように支援する。
3.3 正常な産褥復古経過からの逸脱を判断し、適切なケアを行う。
3.4 母乳育児に関して、女性の意思を尊重し、「母乳育児成功のための10カ条」と「母乳代用品の販売流通に関する国際基準」に基づいてケアを行う。
3.5 母乳育児を行えない/行わない母親への支援を行う
妊娠中から何らかの要因で母乳育児の選択ができない母親への支援/出産後に何らかの要因で母乳育児が行えない母親への支援/母乳育児を希望しない母親への支援
3.6 家族機能と役割の変化に対応できるように支援する。
家族の生活環境や生活背景のアセスメント/家族機能と役割の変化への適応状態に関するアセスメントおよび支援/児童虐待の予防と早期発見(発見時は法に基づき通告)
3.7 家族が地域社会の資源や制度を理解し活用できるように支援する。
【新生児/乳幼児のケアにおける役割・責務】
助産師は、新生児に対して、妊娠・分娩の影響や、母体外生活に移行するための生理的適応に伴うニーズをアセスメントし、新生児の心身の健康を最大にするためのケアの責任を負う。出生と同時に新生児は呼吸・循環をはじめさまざまな生理的変化を来す。そのため、母体外生活への適応状態に関わる注意深い観察と診断により、異常を早期に発見し、適切な処置・ケアを行う。さらに、家族の愛情に育まれて成長することができるように環境を整える。
また、出生後に引き続き、乳幼児の成長発達に関するアセスメントを行う。女性とその家族が、乳幼児の成長発達に応じた適切な育児ができるよう支援する。
【新生児/乳幼児のケアに必要な能力】
4.1 母体外生活への移行期(24時間以内)のアセスメントとケアを行う。
出生後の経時的アセスメントとケア/愛着行動のアセスメントと愛着を促すケア
4.2 母体外生活への移行後(24時間~1か月未満)のアセスメントとケアを行う。
4.3 出生後1か月間の母子とその家族の支援を行う。
関係機関等の連携/産褥入院、産褥電話相談、産褥母子訪問
4.4 乳幼児の発育・発達に応じたアセスメントを行い、正常を逸脱した場合、医師や他の専門職と協働してケアを行う。
4.5 乳幼児の発達過程に応じた育児上の留意点を把握し、成長発達を促進するよう支援する。栄養、事故防止、基本的生活習慣の獲得と援助方法、遊び、疾病予防など
【地域母子保健における役割・責務】
助産師は、母子とその家族に関する健康指標を地域特性と関連づけてアセスメントし、地域の母子の健康レベルに応じて、健康診査や相談の技法を用いて支援する。また、妊娠期から一貫して母子とその家族に対する健康の支援を行う。 さらに、地域住民のネットワーク活動に参画しながら、母子とその家族の住環境、職場環境、育児環境の改善に向けて社会や行政などへの情報提供や提言を行う。
【地域母子保健に必要な能力】
5.1 地域の保健医療機関・専門職団体の一員として行動する。
5.2 母子保健に関与する地域住民のネットワーク活動を支援する。
自主グループ(妊婦グループ、育児グループなど)の形成促進・活動活性化の支援
5.3 行政が行う母子保健福祉事業(健康診査、保健指導など)に参画する。
妊産婦、新生児、乳幼児等の個別の健康診査や相談およびフォローアップ、訪問指導/市町村保健センターなどで行う健康診査/妊産婦および乳幼児等に対する一貫した母子保健福祉事業の支援
【ハイリスク児とその家族のケアにおける役割・責務】
助産師は、超低出生体重児などのハイリスク児の出生から出生後1年ごろまで、子どもの発育・発達に対応した育児ができるよう、医師や他の専門職と協働して家族への継続的支援を行う。
さらに、子どもの虐待の予防を意図したフォローアップや、ハイリスク児とその家族を支える地域住民のネットワーク形成を促すかかわりを、施設内助産師や地域の助産師、保健師、福祉関係者との連携を通して行う。
【ハイリスク児とその家族のケアに必要な能力】
6.1 ハイリスク児の生理学的適応を促すケアを行う。
6.2 家族の心理的・社会的側面の診断を行う。愛着行動/生活環境/職業/女性に対する暴力や児童虐待のリスク要因/家族の健康状態/経済状態/家族関係/現在の精神状態/分娩経過の受容など
6.3 家族の心理的・社会的側面の支援を行う。
家族の精神的支援/家族が子どもに愛着行動をとりやすい環境整備など
6.4 高度医療の環境下にある子どもの養護に、両親がかかわることができる環境を整える。継続ケア/医療と保健福祉とのネットワーク/ハイリスク児とその家族を支える地域住民のネットワーク形成など
6.5 医師や他の専門職との協働において、ハイリスク児の発育・発達支援する。
【出生前診断・遺伝相談におけるケアの役割・責務】
助産師は、胎児の健康に不安を抱く女性とその家族に対して、出生前診断に関する最新の情報提供、検査時のケアおよび出生前診断の経過中の精神的支援を行う。その際に、胎児および女性とその家族の生命・生活の質を考慮に入れて、助産師は医師や他の専門職とともに支援する。
【出生前診断・遺伝相談におけるケアに必要な能力】
7.1 最新の研究結果に基づいた情報を提供する。
出生前診断の目的、検査の種類、方法とその精度、予測される危険性など/胎児異常が発見された場合に行う治療の種類、目的や方法、成功率、予測される危険性など/胎児異常が発見されても治療方法がない場合に予測される状況、対応の種類、目的や方法が予測される危険性など/子どもの療育支援状況に関する福祉対策や支援グループ活動/出生前診断や治療に伴う経済的負担について、また、利用可能な社会資源など
7.2 出生前診断の経過中に伴う意思決定および意思決定したことに対する相談や精神的支援を行う。
検査を受けるか否かの意思決定/検査結果が異常であった場合の意思決定など
7.3 出生前診断の経過中に生じる精神的負担についての相談に応じ、子どもの出生後の療育に関する継続的な支援を行う。
精神的な負担(プライバシーにかかわる問題/自尊感情の低下/罪責感/心理的外傷/喪失観/葛藤)など
7.4 上記1~3の活動を行う際は、医師や他の専門職、関係機関と連携する。
ウイメンズヘルスにおける役割・責務
助産師は、女性の健康の保持・増進を促し、女性が自己の健康管理を行えるよう日常生活上のケアを通して支援する。具体的には、リプロダクティブヘルス/ライツの視点から、女性のライフステージに対応した課題において、健康教育、知識の普及・啓発、健康相談、保健指導を行い、健康をめぐるさまざまな問題に女性が対処できるよう支援する。
【思春期のケアにおける役割・責務】
助産師は、思春期特有の変化を理解し、二次性徴に伴う身体、精神・心理機能について、適切な助言と相談を行い、正常な成長・発達に向けた支援を行う。
具体的には、対象者の成長発達段階に応じた理解力、判断力、思考力、表現力や生活行動能力のアセスメントを行う。さらに、精神・心理面の変化とそれに伴う危機、身体の成長・発達と二次性徴、性機能の発達をアセスメントし、健康逸脱および性機能障害の早期発見を行う。その上で、保健・医療関係者と相談し、思春期男女の家族、学校、地域社会等と協力して、健康改善に向けて対象者のニーズに応じた支援を行う。
【思春期のケアに必要な能力】
1.1 年齢に応じた心身の発育・発達状態についてアセスメントを行い、必要時、医師、カウンセラーに紹介する。
1.2 生活習慣のアセスメントを行い、必要な支援を行う。
1.3 思春期特有の悩みをもつ男女に対して相談を行うとともに、思春期男女への対応に悩む家族や教師に対しても支援を行う。
1.4 自己の責任において性に関する意思決定を行えるように、家庭、学校、地域社会等と連携をとりながら支援する。対象者が、ピアサポート、ライフスキル等についての知識を得たり、生命についての考え方や価値観を深められるように、適切な場面、教材、人材を活用して情報を提供する。
1.5 思春期の男女に、男女相互の生理・心理、人権尊重、パートナーシップ、家族計画、家庭・生活運営、親となる準備、性感染症の予防などについて学習の支援を行う。
1.6 生活自立能力のない思春期の女性とパートナーには、妊娠の継続・分娩・育児、または妊娠の中断に関する意思決定を行うために必要な情報を提供する。さらに、保護者、パートナー、保健医療福祉機関、学校、地域社会等、周囲の理解と支援が得られるよう継続的な援助を行う。
【中高年のケアにおける役割・責務】
助産師は、中高年にある女性に特有な卵巣機能の低下と停止に伴う身体、精神・心理機能の変化を理解して、その適応を促すために適切な助言と指導を行い、日常生活の質を高めるように支援する。
精神・心理面の変化と危機、加齢と身体機能、発生しやすい疾患を理解して健康状態のアセスメントを行い、必要に応じて医師および他の専門職と相談しながら健康改善に向けて対象者のニーズに即した支援を行う。
【中高年のケアに必要な能力】
2.1 中高年女性の加齢に伴う身体機能、精神心理面のアセスメントを行う。
加齢と循環器系、呼吸器系、消化器系、代謝系、性腺、内分泌系、皮膚・骨筋肉系
2.2 中高年期に発生しやすい健康障害の予防と生活上の支援を行う。
2.3 加齢に伴う心身の変化を受け止め、自己の健康管理ができ、これからのQOL(生活の質)を整えるための支援を行う。
・異なるライフステージにある女性間の交流を通して、女性を支援する。
・悩みを抱えた中高年女性のパートナーへの支援を行う。
・地域におけるピアグループの支援を行う。
2.4 中高年女性に発生しやすい異常のアセスメントを行い、症状緩和のためのケアを行う。必要時、関係機関との連携を図る。
【家族計画における役割・責務】
助産師は、女性とパートナーが、自己のリプロダクティブヘルス/ライツの理念に基づいて、家族計画を立案し、受胎調節を実行できるように支援する。具体的には、女性とパートナーの年齢、健康状態、家族計画に関する知識の理解や対処能力をアセスメントし、対象に適切な避妊と受胎に関する情報を提供し、実施、評価を行う。
さらに、セクシュアリティや多様な性意識の尊重、性暴力への対処、妊娠・分娩に関する自己決定などにおいて幅広い支援を行う。
【家族計画に必要な能力】
1.1 女性とそのパートナーの身体的、心理的、社会的、経済的側面、文化的・宗教的側面をアセスメントし、適切な家族計画が立てられるよう情報を提供し、支援する。
1.2 女性とそのパートナーに、受胎するための健康相談やカウンセリングなどを行う。
1.3 女性とそのパートナーが、適切な受胎調節法を選択できるよう情報を提供し、支援する。
【不妊の悩みをもつ女性へのケアにおける役割・責務】
助産師は、希望していても妊娠しない悩みをもつ女性とその家族に対して、コミュニケーション、カウンセリング、相談の技法を用いて、情報収集し、状況を把握する。その上で、生殖機能の状態や性生活を含めた妊娠を成立させる要因のアセスメントを行い、対象者の状況とニーズに応じた支援を行う。
1~6の支援を行う助産師は、専門の卒後教育を受けて、一定水準の能力を維持して行う。
【不妊の悩みをもつ女性へのケアに必要な能力】
2.1 不妊に悩む女性とパートナーに対するカウンセリングを行い、その女性とパートナーの対処能力を高める。
2.2 不妊に悩む女性とパートナーの心身の健康状態の改善を改善するために、日常生活上の調整ができるよう支援する。
2.3 不妊治療に伴う検査や治療法の有効性(成功率、失敗率)、苦痛の有無(身体的、心理的、経済的、時間的)、限界と見通し、施行後のフォローアップなどに関する情報を、医師やカウンセラーと協働して提供する。
2.4 不妊に悩む女性やパートナーが、医師の提示する検査・治療などの選択肢から、自分たちのニーズに適したものを選び、治療の方向性(不妊治療の開始、継続、中断・中止等)に関して自己決定できるように支援する。
2.5 不妊治療の経過中、女性とパートナーに生じている身体的、心理的、社会的、経済的状況を理解し、相談・カウンセリングを含む必要な支援を行う。
2.6 不妊治療後妊娠した女性とパートナーの支援を行う。
【性感染症のケアにおける役割・責務】
助産師は、女性の性感染症に関する健康状態を理解し、女性が自己の健康管理を行えるように支援する。最新の情報を提供しながら、医師や他の専門職とともに治癒・再発防止に向けた援助を行う。
性感染症予防に関しては、女性のみならず、そのパートナーや社会に対して、治療の継続性への理解を深め幅広い社会的啓発などの活動を行う。
【性感染症のケアに必要な能力】
3.1 性感染症(Sexually Transmitted Infection : STI)の可能性についてアセスメントを行う。
3.2 検査結果に応じた対応の選択について、女性とそのパートナーの意思決定に関する相談や精神的な支援を継続的に行う。
3.3 母子感染・性感染症予防のために、地域への啓発活動に参画するとともに、実情に応じて個別の対応も行う。
【月経障害のケアにおける役割・責務】
助産師は、月経障害に関する健康状態を理解し、女性が自己の健康管理を行えるように支援する。月経障害に関し、最新の情報を提供しながら、医師や他の専門職とともに症状の改善に向けた援助を行い、健康の維持・増進を図る。
【月経障害のケアに必要な能力】
4.1 月経障害に関する治療の必要性の有無についてアセスメントを行う。
4.2 月経障害の症状改善に向けた日常生活の支援を行う。
【女性に対する暴力へのケアにおける役割・責務】
助産師は、女性のリプロダクティブヘルス/ライツを尊重して、女性に対する暴力(※7) を発見し、アセスメントを行い、医師や他の専門職との連携のもとに、適切な援助を行う。
【女性に対する暴力へのケアに必要な能力】
5.1 女性の身体的、心理的、社会的状態をアセスメントし、女性に対する暴力を早期に発見する。
5.2 女性に対する暴力を発見した場合、被害女性が受けた女性に対する暴力について、法に基づいて詳細な記録を行い、通報する。
5.3 被害女性に対して、女性に対する暴力に対処するための必要な情報を提供する。女性への暴力が起こる病理、暴力が女性に及ぼす身体的・心理社会的影響/女性への暴力に対する社会的認識と暴力防止への取り組み/医療における被害女性への対応に関する基礎的知識/相談および支援機関との連携とサポートに関する知識
5.4 被害女性に対して、状況に応じた介入の必要性を判断して、適切な機関に紹介し、連携をとりながら継続的に支援を行う
(※7)女性に対する暴力
親密な関係にある男性からの女性への暴力である。女性に外傷などの害を及ぼすかも知れない身体的な力を故意にする身体的暴力、威嚇や強制を含む言葉によって女性を侮辱する精神的暴力、女性の意思に反して性的行為を強要する性的暴力をいう。
Ⅴ 助産管理における役割・責務
助産師は専門職者として、実践領域で管理業務を行う。具体的には、施設を自ら経営し、または経営管理に参画して、緊急時の適切な対応や医療事故防止に努め、質の高い助産ケアを提供し、保健・医療・福祉に貢献する責務を有する。
助産管理に必要な能力
1.1 安全で快適なケアを提供するために、施設の理念や目標を設定する。
1.2 運営管理上、必要な人的資源・物的資源の確保、および業務・ケア基準、業務手順を整備する。必要に応じて業務内の人間関係の調整や業務の改善を行う。
1.3 施設を自ら経営する場合には、健全な財務運営を図る。
1.4 助産実践に必要な法的規定を理解し、文書や記録を適切に扱う。
1.5 助産の施設・組織の特性に応じた業務管理を展開し、ケアの質を評価する。
1.6 周産期におけるリスクマネジメントの特徴を踏まえ医療安全体制を整備する。緊急時の対処/ハイリスク妊産婦ケアの適切な展開/医療事故防止/感染予防対策/災害対策等
1.7 他職種・他部門との調整をするとともに、施設外との協働を積極的に行う。
1.8 科学的根拠に基づいた助産実践(Evidence Based Practice Midwifery : EBPM)の推進に向けて、行政に提言する。
Ⅵ 専門職としての自律を保つための役割・責務
【専門職としての役割・責務】
助産師は、自律性のある専門活動を維持し向上させるために、専門職能団体を組織し社会的な活動を行う責務をもつ。かつ、自ら研鑽し助産師としての資質を高める責任を有する。そのためには、助産領域の研究に参画し、活動領域を超えて、助産師間や、ケア対象者、医師、他の専門職との相互交流を通じて、助産ケアの改革や質の向上を目指す。
さらに、後輩助産師の育成に努める責務をもつ。
【専門職として必要な能力】
1.1 専門的な組織活動を通して、専門領域での助産師の役割と機能を高める。
1.2 専門職の責務を十分に果たすために、業務を評価し、助産ケアの水準を向上させる。
1.3 専門職者として、助産ケアの改善や質の保証のために、実践データを蓄積し、根拠に基づく助産実践を提供するために研究を行う。
1.4 研究によって得られた結果を批判的に評価し、解釈して、実践の場に活用する。
1.5 研究によって得られた結果を、基礎教育および継続教育プログラムに活用する。
1.6 助産師は、助産師同士の組織をつくり、相互に尊重し助け合い、助産ケアの質の向上に寄与する。
1.7 後輩助産師の育成に努める
1.8 時代とともに変化する社会的ニーズを敏感に受け止め、ケア対象者、他の専門職とのネットワークの中で研鑽し、協働して活動する。
1.9 助産業務や助産師教育に影響する政策決定にケア対象者とともに参画する。
1.10 母子保健サービスの成果を向上させるために、行政に必要な提言を行う。