カテゴリー | 保健指導 |
---|---|
名前 | 山岸 和美 |
所属 | すみれ助産院 |
現在は8つの仕事に携わっています。
具体的には、地域の助産院での分娩や産褥ケア等のサポート、地域の母子の育児相談や乳房ケア、自治体の妊産婦・新生児訪問、自治体から石川県助産師会への委託事業の実施、産科病院での夜勤アルバイト、多胎児サークル相談役、NPO法人いしかわ多胎ネット理事長、ふたご手帖プロジェクトの事業です。どれも私の中では大切なお仕事となっています。
助産師を目指したきっかけは?
幼い頃から祖父母と同居しており、祖父母が病院に行く時に私も一緒について行っていました。そこで看護師に憧れを抱き、将来は看護師になりたいと思っていました。その想いは変わることがなく、高校を卒業してからは看護師の資格を取得するために看護学校に通っていました。看護学校での母性看護実習の際に、実際のお産に立ち会うことができたことが助産師の仕事を目指す大きなきっかけとなりました。出産をする妊産婦さんやそれに寄り添う助産師さんがとてもかっこよく見えたのと同時に、こんな仕事があったのかと思い、自分も助産師になりたいと、この道に進むことを決めました。
現在の仕事を始めるきっかけは?
助産学校卒業後、7年間は病院の助産師としてお産の介助や産後のケア・妊婦の保健指導などを行っていました。自分自身が双子を妊娠し、切迫流産になってしまったため仕事を退職しました。双子は早産でNICUに入院したので、産後2か月でようやく自宅での育児がスタートしました。助産師として勤務をしていた経験から、子育ても何とかなるだろうと思っていましたが、実際に子育てをし始めると思い通りにいかず、わからないことが多く、学生時代からの先輩である助産師に泣きついて助けを求めました。その先輩助産師が活動していた助産院に連れて行ってくれて、乳房ケアをはじめとする身体のケアをしながら、話を聴いてくれました。睡眠不足で心身ともに疲れ果てていましたが、帰るころには身も心もとても軽くなったことを今でも覚えています。その助産院には私と同じように子育てに困っているお母さんたちが集まってきていました。それまで、開業することは考えたことはなかったのですが、地域での子育てを応援する助産師になりたいと思い、双子が1歳半の時に開業しました。はじめは、自治体の妊産婦・新生児訪問を中心に活動していました。徐々に乳房ケアや育児相談なども行うようになり、現在に至っています。
先輩助産師にお世話になった助産院では分娩取り扱いもしており、たくさんの先輩助産師方からの協力を得ながら開業から4年後に出張専門で分娩取り扱いもするようになりました。15年間続けましたが、体調を崩したことから現在は分娩を取り扱っていません。今は分娩を取り扱っている他の助産院で、分娩介助のサポートや産褥入院、産後ケアのサポートをさせてもらっています。
多胎家庭支援を始めるきっかけは、自身の育児経験からです。子育てをしているお母さん達との交流を増やそうと双子を連れて児童館や公園にも行きましたが、2人あちこちに行ってしまうので、なかなか他のお母さんたちと話ができずにいました。遊びに行っている公園に同年代の双子がもう1組いたのですが、双子を持つ親子だけが取り残されたような雰囲気となっていました。自然とその双子を持つママと打ち解けることができ、双子だけが集まれる場が欲しいと意気投合し、双子が2歳の時に、多胎児サークルを立ち上げました。当時、仕事では自治体の産婦・新生児訪問をしており、双子の子育ての経験者ということから、双子のご家庭に訪問することが多くありました。そのため、訪問の際にサークルの案内も行いました。サークルでは双子ならではの悩みもですが、双子だからこその楽しみを共感できる環境があり、とてもありがたかったです。
多胎児サークルを立ち上げたことから、自治体の多胎育児教室の講師もさせていただきました。その教室を見学に来られていた、多胎支援の研究者である元石川県立看護大学の大木秀一教授とのご縁があり、いしかわ多胎ネットの立ち上げメンバーに加えていただきました。2005年7月に全国ではじめての多胎ネットが石川県で設立されました。
多胎ネットが設立されたことから、多胎家庭の当事者である大学の先生をはじめ、その他の大学の先生、医療保健専門職、子育て支援者などさまざまな職種の人達と繋がり、事業を進めていくことができるようになりました。また、2012年2月22日の双子の日に活動の公益性と信頼をより高めるためにNPO法人化しました。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、大人数で集まることは難しい状況にありますが、ピアサポートとプレパパママ教室はオンラインでの形式でも開催をしながら活動継続をしています。石川県内での多胎は年間に80組くらい誕生しますが、ピアサポーター*は17名ほどいます。
*ピアサポーター:プレパパママ教室で先輩ママとして経験の話をしたり、傾聴を中心とした家庭訪問、健診や予防接種の付き添いなどをする人のこと。
いしかわ多胎ネットの活動とは別に、『ふたご手帖プロジェクト』にも所属しています。
「ふたご手帖」というのは、妊娠中から産後1年までの多胎家庭に必要な情報やアドバイスを掲載した、妊娠・出産・育児サポートガイドブックです。この「ふたご手帖」を作成・普及活動を行っているのが『ふたご手帖プロジェクト』です。
多胎に関しては、地域によって情報格差が大きくあります。これまでは1人用の母子健康手帳をもとに保健師や助産師の経験を合わせて指導を行っていました。しかし、単胎と多胎ではやはり違いが大きくあります。単胎用のさまざまなデータや母子健康手帳だけで保健指導を行ってしまうと、基準から漏れる人が多く、不安を持ったり自分はダメだと思ったりしてしまう母親もいます。そのため、多胎のデータやこれまでの多胎家庭支援の経験をもとに、母子健康手帳の副読本を作成しました。
ここに記載されている内容は、全国の多胎サークルに所属する565名の多胎児ママから提供された母子健康手帳の記載データと質問紙調査による回答などをもとに看護大学の大木教授ら研究職と助産師、保健師、幼稚園教諭、保育士などの資格と長年の多胎児支援活動経験を持つ多胎児ママたちによってまとめられたものです。プロジェクトは2015年から始動し、2018年から「ふたご手帖」の配布を開始しています。個人で購入することもできますが、プロジェクトでは、自治体が購入し母子健康手帳交付時に内容の説明をしながら多胎妊婦さんに届けてほしいと願っています。今は、全国の自治体の1割くらいが母子健康手帳交付時に「ふたご手帖」を活用してくださっています。
地域での活動を始めた頃に出会ったお子さんが助産学生になっており、再会し「赤ちゃんの時に抱っこしたよ」などと話をすることができたことです。今後自宅出産のサポートをしていたときに立ち会った子供たちが助産師を目指してくれる事があるといいなと期待しています。
また、助産所で生んだお母さんとお子さんが節目で会いに来てくれたり、2人目や3人目を生むときにふたたび助産院に来て成長を見る事ができたり、長く関わる事ができることも嬉しいです。多胎の妊婦訪問の約束をするために電話したところ、「義母が妊娠は病気じゃないからよく動きなさい、と安静にさせてもらえない」と悩んでいらっしゃいました。訪問の時に義母も同席してもらうようお願いして訪問しました。多胎妊娠と単胎妊娠の違いを話し、安静が必要であることを話したら納得してくださいました。妊婦訪問以降、義母は安静生活にすごく協力してくださったそうで、妊娠38週でそろって3000g台の双子を無事に出産されました。このように妊娠中から出会えた方が無事に出産されるととても励みになります。
活動の原動力は何ですか?
双子を持つお母さんを応援したいという思いが大きいと思います。自分の妊娠中、本当に無知である事を思い知りました。助産師として勤務する中で、切迫早産で入院中の双胎妊婦さんも多く見ていたから多胎の妊娠に関して、わかっているつもりでした。しかし何もわかっていなかったのだと実際に妊婦になって思いました。妊娠33週で子どもを産んでNICUに足を運んだ時期もありました。小さく生んだことに罪悪感を覚えた事や、離れている間にNICUの看護師をお母さんだと思ってしまうのではないかと不安に思うこともありました。そういう思いになるお母さんを減らしたいという想い、すこしでも支えたいと言う気持ちです。また、これまで出会った多胎のお母さんたちから、「妊娠中からとても不安だった」「妊娠中にこんな生活になることがわかっていたらこんなに困らなかったかもしれない」「先が見えず不安だった」「まわりに双子を育てた人がいなくて孤独だった」という声をよく聞ききました。妊娠中からのサポートが大事であること、同じ経験をしている仲間とのつながりがとても大事だということを専門職はじめ社会の皆さんに知ってほしいという思いでいっぱいです。
私自身、サポートを現場で実践したいという思いがあるのと同時に、コーディネートをすることが苦手です。ですが、いつまでも自分が主導で動けるわけではありません。そのため、多胎家庭支援を継続するためにも、若い人たちが活躍できるよう、後進の活動をサポートができる存在になりたいと思っています。
今後は多胎ネットにもより多くの人が関われるように、いしかわ多胎ネットにも大学の先生や多胎児を持つ家庭以外の方も関わってくださっています。
多胎ネットの理事の大学の先生のゼミの授業で、学生にも多胎家庭の現状を話しています。そのなかで双子の子育てのいろんな場面を経験してもらいました。去年の学生が一番心に残った授業がそれだったこともあり、今年も継続する予定になっています。多胎支援だけに言えることではありませんが、実際に経験していなくても想像してどれだけ寄り添えるかということを考えることができるようになることが困っている人に対しての支援にもつながると考えています。「多胎に優しい社会はみんなに優しい社会」、「スペシャルニーズを持つ子供に優しい社会はみんなに優しい社会」と言う言葉があります。多胎家庭だけではなく、子育てをしている家庭が困っていると言う声をあげられ、適切なサポートが受けられるようになるといいなと思っています。
やってみたいと思った時期を逃さずに、やってほしいと思います。「この勉強をしてから」や「〇〇ができるようになってから」と先送りにするのではなく、やりたいと思ったその気持ちを大事にしてやってみてほしいと思います。