Narrative ナラティブ

助産師ナラティブ~布施 明美~
カテゴリー 勤務
名前 布施 明美
所属 医療法人産育会 堀病院

現在のお仕事について教えてください。

神奈川県の医療法人産育会 堀病院で看護部長として働いています。当院は神奈川県で最も出産数の多い病院で、年間約2,000人の出産を取り扱っています。妊婦さんやご家族の方の考えるバースプランに沿って、一度帝王切開を経験した方でもご本人が希望すれば安全を配慮しながら経腟分娩を行うことを前向きに検討できる病院です。

 

助産師が経過を見ながらしっかり関わる中で、お母さんが満足のいく出産を最大限支援できることが当院の特長です。又、ケアの最善を考え新生児からの一生ものの肌作りを実践し、将来のアレルギー予防するためのスキンケアと、母乳栄養確立への支援、子育ての悩みに寄り添う産後ケアには特に力を注いでいます。

 

現在のお仕事を始めるまでの経緯について教えてください。

助産師を目指したきっかけは?

私は大家族の中に生まれ、両親に加えて祖父母と三世代同居している家庭で育ちました。小学生の時に祖母が入院し、お見舞いに行った時に看護師の仕事を間近で見て、患者さんを勇気づけ支援する力がすごくある仕事だと思いました。看護師が笑顔で挨拶するだけでも患者さんが元気になることを実感し、小学校6年生のときに看護師になろうと決意しました。
その後看護学校を卒業し、もともと子ども好きだったことから小児看護を学びたいと思い、総合病院の小児病棟で働きました。その時に、妊娠中のお母さんの健康状態が産まれてくる赤ちゃんに及ぼす影響が大きいことを感じました。また、多くのお子さんやお母さんたちとの出会いを通して、出産の体験がお母さんの人生に大きな影響を与えたことに感銘を受けました。

私自身が助産師の資格を取ろうという決め手になったのは、自分自身の妊娠・出産体験でした。当時、お産を担当してくれた助産師さんのケアがとても素晴らしく、初めてのお産で不安も多くありましたが前向きな気持ちで取り組むことができました。かけがえのない出産体験を思い出のあるものにするために寄り添えるのは、助産師ならではの仕事だと思いました。その時、私も助産師になりたいと強く思い、助産師資格を取って現在に至ります。


  1. 現在のお仕事である堀病院に携わったきっかけは?

堀病院に来る前は、神奈川県立こども医療センターの総合周産期センターで助産師として産科病棟・NICU病棟看護科長を経て副看護局長・周産期センター副センター長として、6年間勤務していました。そこではNICUやGCU、産科病棟で様々な患者さんと出会い、健康な妊娠生活や安全な出産、質の高い新生児ケアを実践することの必要性を実感しました。特に授乳支援と母乳栄養の確立、そして赤ちゃんの皮膚ケアの重要性を学び、体重が標準よりも少なく生まれたお子さんや早く生まれたお子さんに対して、お母さんと赤ちゃんの健やかな生活を支援する仕事は助産師にしかできないと思いました。

神奈川県立こども医療センターを定年で退職したのを機に、現在の堀病院に移りました。神奈川県内で1番出産の多い病院で母子に関わるのは、自分の使命だと思っています。個人病院ならではの柔軟性を活かし、良い出産と良い子育てをしてもらうための総合的な支援をしています。

現在のお仕事でのやりがいについて教えてください。

助産師のお仕事の魅力とは?

女性が大変な陣痛を乗り越えて、自ら新しい命を産むという支援ができるのは、助産師の仕事の醍醐味です。難産や赤ちゃんの回旋に時間がかかっている場合でも、体位を工夫することなど助産師が様々なケアを行うことで、お産が進んでいく事例もあります。そんな風に助産師の持つ力で分娩を支援した結果、赤ちゃんもお母さんも元気な状態で出産を終えた時はとても嬉しいです。また、授乳中なかなか上手に吸えない赤ちゃんが、毎日の乳房ケアを通して最終的に吸えるようになった瞬間は、本当に感動的です。お母さんと赤ちゃんの力を引き出しながら支援ができるのは非常にやりがいがあります。

また、当院でスキンケアの指導をしたお母さんが赤ちゃんのお肌がきれいな状態で来院してくれるのも嬉しいです。お母さんたちの一生懸命なケアのおかげで、1か月健診で会ったときも湿疹のないピカピカなお肌の状態で来ているケースが多くあります。皮膚科の先生との勉強会で、新生児からのスキンケアがアレルギーを作らない体質づくりにつながると学びました。また、赤ちゃんもお肌が綺麗なことでご機嫌な状態を保つことができ、夜間しっかり眠るとお母様が話してくれます。お子さんがいつまでも健康で育つために、バリア機能を活かしたきれいな皮膚を作ってあげるのはすごく大事だと実感しています。

こころに残っているエピソードは?

NICUで働いていたときは、1,000g未満の超低出生体重児の赤ちゃんを出産したお母さんと関わることも多くありました。「低体重になったのは自分のせいではないか」と多くのお母さんが自責の念を持ってしまう中で、助産師が継続的に関わって「誰のせいでもないですよ、今できることをしていきましょうね」と声かけし、しっかり母親の思いを傾聴することを大事にしていました。
赤ちゃんが予定より早く産まれてしまうと、ホルモンの関係でお母さんの乳腺の発達が不十分になり、母乳が出にくい傾向にあります。そこでNICUの中に母乳外来を立ち上げて、助産師が乳房ケアをすることにしました。そのケアのたびに、お母さんたちは涙を流しながら色々な想いを語ってくれます。話をすることでお母さん自身が気持ちの整理をし、前向きに子育てに向かう様子が見られたときは、とても嬉しい気持ちになりました。

お母さんたちに寄り添うために大事にしていることは?

まずは、「肯定すること」です。
妊娠や出産まで頑張ってきたことを認めてあげると、受け止められたという安心感が芽生え、心を開いて様々な話をしてくれるようになります。そのうえで会話の中で様々な情報をお聞きして、支援のヒントにしていきます。お母さんが話したいことを中心に傾聴することで信頼関係が作られ、何かあったときも頼ってもらいやすくなります。ですので、妊娠中からしっかりとその後につなげる長期的な視野を持つ切れ目のない支援が重要です。

関わりの中でも特に大事なことは、その人の持つ背景を十分理解して、丸ごと受け止めることです。助産師との会話を通してお母さん自身も変化を実感し、自分自身を成長させることができたと言ってくれた方もいました。私たちも涙ながらに関わる機会が多々ありましたが、助産師は人の心の整理にも携わることができる奥深い仕事だと思います。そんな経験を通して私自身の人間性も育ててもらっていると感じます。



苦労したこと、難しいと感じた経験があればお聞かせください。

精神面で疾患を抱える方は、妊娠中に薬が飲めずにメンタルがうまくコントロールできないことで悩みがちです。また、妊娠中は問題が発生しなかったとしても、出産後に様々な症状が出る方もいます。精神的な病は産後ケアの範囲外となってしまいますが、時には緊急性が求められる例もあるため、どこへどう患者さんを引き継ぐかが重要です。精神科とのつながりの面ではまだまだ課題があり、今も苦慮しながら1件1件対応しています。精神科医と継続的に情報共有し、どういった支援をすればいいのか、受診が必要かどうかを判断できるシステムづくりは今後の課題です。

今後の目標や展望など教えてください。

堀病院では、妊娠中から産後まで切れ目のない支援をするために、今後は育児教室の実施に加えて女性の健康課題を扱う講座などを開催したいと思っています。具体的には、更年期や老年期の尿もれを防止する骨盤底筋のエクササイズ指導や、骨量やホルモン値検査を通しての健康チェックなど、フェムテック/フェムケア*を推進していきたいです。これは当院を受診された患者さんはもちろん、地域のどなたでも参加いただけるシステムにするつもりです。
*フェムテック/フェムケア:フェムテック(Femtech)とは、2013年にドイツで生まれた考え方で「Female(女性)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語のこと。生理やPMS、妊活支援や更年期のトラブル、ホルモンのケアを行い、女性の身体や健康を支援することを言います。

昨年立ち上げた産後ケアについては、核家族化が進む現代でとても重要な取り組みだと思っています。昔は大家族の中での育児で、赤ちゃんの世話をする人がたくさんいました。しかし今は、子育てを知らないお父さんお母さんたちだけで育てなければなりません。赤ちゃんが泣きやまないとどうしていいかわからず、不眠やうつになる方も増えています。

このことからも切れ目のない支援はとても重要で、家族でできないことがあるのなら、誰かが支援するべきだろうと考えています。子育てのことはもちろん、不妊・不育や死産を経験した方の傾聴支援なども含めた、女性のトータル支援センターを目指していきたいです。

これから助産師を目指す方や、さらなる飛躍をしたいと考える現役助産師の皆さんに向けたアドバイスをお願いします。

助産師は様々な分野で活躍できる、無限の可能性を秘めています。赤ちゃんから老年期まで女性の一生を支えられる素晴らしい仕事です。これから助産師になろうという方は、ぜひ幅広い女性支援を目指して多くの挑戦をし、視野を広げて欲しいと思います。またすでに助産師の方は、たくさんの方に出会い、人脈を大切にし、自己の人間性を深めて魅力ある助産師になってください。
これまで経験したことは、すべて自分の力になると思います。私も家族の太陽である女性の皆様を明るく元気にするために、地域とのつながりを大事にしながら健康で美しい女性の一生を支援できる環境づくりに邁進していきます。

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