カテゴリー | 教育 |
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名前 | 岡本 美和子 |
所属 | 日本体育大学 児童スポーツ教育学部 児童スポーツ教育学科 教授 |
大学の学部では、保育士、幼稚園教諭、小学校教諭を目指す学生、大学院では養護教諭を目指す学生への教育に携わっています。
非常勤講師としては、いくつかの大学で母性看護学の授業や大学院で助産師を目指す学生さんを対象に、助産師が地域で行う子育て支援の実際について講義や演習授業を行っています。最近、調査も兼ねて保育所でマタニティクラスと育児学級を行っていますが、保育の現場で行うマタニティクラスなどは思っている以上にこれから育児を行う親御さんにとってとてもメリットがあります。例えば、子どものお世話をするのが初めてという両親にとって、赤ちゃんが泣けばおむつ交換をし、あやしている様子を目の当たりにすることができます。お母さんが0~6歳児の成長と保育者のお世話を見ることができるというのは本当にメリットが大きいと思っています。
私が生まれた頃は、病院出産と自宅出産がちょうど半々になったときでした。私は自宅出産で産まれたのですが、母は「助産師さんのおかげで安産だった」と本当に助産師を尊敬しており、子育てで悩んだときも祖父母のアドバイスより助産師さんを優先していたそうです。大学進学を考えた時に、将来は看護師か教員の道に進むことを考えていました。母に「助産師さんは女性に頼りにされるし、社会的にも自立している職業、一生その資格で働くことができるわよ。」と物心ついたころから聞かされていたことがとても記憶に残っており、それが助産師を目指す大きなきっかけになったと思います。
助産師として臨床経験を積みながら子ども110番などの相談業務や、地域の保健センターで子育て支援業務に関わっていました。子育て支援業務を行っていた時に、たくさんのリサーチクエスチョンと出会ったことがきっかけとなり、大学院に進学することにしました。
現在の勤務先は、大学院生時代に非常勤講師を行っていた大学でした。大学院の修士~博士課程では「赤ちゃんの泣きと乳幼児揺さぶられ症候群」の予防に関する研究を行っていました。それまでの自分のライフワークは、女性とそのパートナーへの妊娠中からの子育て支援でしたが、大学での支援者教育と地域での子育て支援どちらも両輪で活動ができるのではないかと考え、現在の仕事をスタートさせました。
研究の中で得られた新しい知見、例えば成長に伴う赤ちゃんの泣きの変化と対応を新生児訪問指導や両親学級・育児学級など、子育て支援の現場に取り入れることで、子育て中の親御さんに少しでも役立ててもらえた時は、研究を続けてきて良かったと思いました。また学生たちに教えてきたことが卒業後、保育所や幼稚園、子育て広場などの現場で活用してくれている話や、学生自身の妊娠・出産・子育てで実践してくれる話を聞くと嬉しく感じますし間接的な子育て支援に繋がっていると実感しています。
保育の学生は、本当に子どもが好きで、子どものためにといつも子どもファーストです。それはそれでとても大事なことですが、学生に児童虐待の話をすると皆が当然「虐待なんて許せない」と言います。しかし、誰も好きで虐待しているわけではなく、親が何らかの理由で精神的に追い込まれている環境があり、その原因が何かというところに着目し予防・解決していくことも大切だと伝えています。子どもの幸せのためにも家族みんなが幸せになる方法を考えた方がよく、子どもの幸せは、家族の幸せの上に成り立っているっていうのを理解して欲しいと思っています。授業やゼミでは、孤立した子育て、妊娠・出産後の不安、産後うつなどについてもよく話をするのですが、卒業後に学生が訪ねてきてくれた時、保育の現場や自身の子育てで、授業で聞いたことや演習で学んだことが役立っていると聞くと本当に嬉しいです。
特にこれといったことは思い浮かばないのですが、強いて言えば、ここ数年新型コロナウイルスが流行しマタニティクラスや育児学級、大学での授業形態を変えざるを得なくなったことだと思います。演習をオンラインで行うことは本当に難しく、例えば赤ちゃんの更衣や沐浴、清拭、遊びなど人形を使って録画して配信していたのですが、やはり実践とは違うので、対面が可能になってから学生と一緒に振り返りを行いました。
マタニティクラスや育児学級では、知人にお願いして赤ちゃんの写真を撮らせてもらい子どもの成長過程を見てもらったり、抱っこの仕方や、遊んでいるシーンなどを動画に撮ったり、他にもいろいろな用具を使ったり、どのようにしたら実際の様子が伝わるか試行錯誤しながら取り組みました。
勤務校が体育大学ということもあり、女性アスリートの心身の健康や子育て支援に関わることができるようになってきました。アスリートやコーチなどの指導者は、元々男性が多く女性が少ない傾向にありました。それが2008年の北京オリンピックになるとアスリートの男女比がほぼ同等程度になってきました。妊娠・出産を経て競技を続けるママさんアスリートや監督、コーチも増えてきました。大学が国立スポーツ科学センターとも関係していることがあり、そういう方々が子育てをしながら競技や指導を継続できるように協力してほしいという依頼があり、センター内に保育室を開設する際に協力させていただいたこともありました。関わってきた女性アスリートが国内外で活躍している姿を見ると嬉しいです。女性のアスリートやコーチたちが切れ目のない支援を得るためにはどうしたらいいのか、各競技団体の組織内でどのようにすれば継続支援を確立していけるのかが今後の課題であると感じているので、継続的に関わることができればと思っています。
また大学の組織に身をおいていることから、新型コロナウイルスの流行前は教員仲間とともに海外の母子保健の調査に出かけたり、都内の病棟勤務の助産師さんたちと共同研究(介入研究)を行い、その研究の結果から臨床現場で子育て支援に活用できる小冊子を何冊か作成したりもしてきました。これからも研究と現場を往還しながら地域に還元できることを続けていきたいと思っています。 私が子育て中の親御さんやこれまで関わってきた多くの女性から教えてもらったことを学生たちに伝え、卒業した学生がそれぞれの現場でそれを活用してくれて、その結果を卒業生から教えてもらい、さらに思考を重ね良いものにしていくといったサイクルができたらいいなと思っています。
保育や教育の現場で助産師が関われることは限られているかもしれません。だからこそ学生たちには保育や教育の現場において、親子に寄り添える人になってほしいと思っています。今のお母さんや子どもたちの置かれている環境や社会の現状についてもしっかり伝えていきたいと思っています。
助産師は本当に女性の一生に関わることができる仕事だと、今さらながらその意味を実感しています。女性の一生のどこにでも関わり寄り添える役割を担っており、看護の中でも非常に伸びしろのある職業だと思います。臨床を経験しているとそのうち自分の興味を引く分野が枝分かれしてくると思います。今まで以上に女性の味方になりたい、女性の声を聴きしっかり寄り添いたいと思えることに、きっと出会うことがあると思います。もしかしたら、既に頭の中でよぎっていることがあるかもしれません。興味をもった分野を追求していくことで新しいことが見えてきますので、そのような出会いがあったら、是非一歩を踏み出してみてください。