カテゴリー | 教育 |
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名前 | 藤田 景子 |
所属 | 静岡県立大学 |
現在は大学において、助産師を目指す学生への教育を行っています。母子の傍で、じっくりと関わり、寄り添いながら支援できる助産師、母子の専門家として自立して他職種と連携しながら良いケアを提供できる助産師、母子の安全な出産や育児のための環境を整えるシステムや制度を作る取り組みができる助産師など、個々のスタイルに合った助産師が、世の中で活躍してくれるのを願いながら後輩の育成に携わっています。
また、私はドメスティック・バイオレンス(DV)被害で苦しんでいる母子や、若者のDV(デートDV)や性暴力など、女性や子供、その家族が苦しみ悲しまない世の中になるように、助産師として取り組める支援に関しての研究を行っています。 大学院教育において、院生の修士論文(課題研究)に共に取り組み、院生と楽しく議論を繰り広げています。院生自身が自分の考えを言語化したり、他者の意見を聴きながら検討することで視野を広げたり、思考を深めたりしながら、物事を探究する力を身につけた助産師になってくれたらなと思っています。
助産師を目指したきっかけは何でしょうか?
母性看護学実習で、陣痛発来で来院した産婦さんとその夫に、第1期から分娩まで丸1日。当時は、陣痛自体がきた時どうしたらいいか分からず、陣痛が来たら3人で抱きつき「一生懸命産む」ということに素晴らしさを感じました。じっくり関わらせていただいた中で、母子や家族に寄り添ったケアのできる助産師になりたい!と思ったのがきっかけです。そして生まれてきた子どもに「幸せになってほしい」と思ったのと、助産師なら出産後にもかかわることができるということに気づきました。実は、私はそれまで全く助産師に興味がなかったのですが、その方のお産に立ち会わせていただいたことが、助産師を目指す素晴らしい機会となりました。
現在の仕事を始めるきっかけを教えてください。
臨床で助産師として働いていた際にDV被害を受けた妊産婦さんに出会いました。実はその当時私はDVについて全くわかっていませんでした。子ども2人とともに海に飛び込み心中をされた方がいたのですが、入院中にはDVを受けていたことはわからず、後に分かりました。助産師として身近にいることが多いにもかかわらず、表面上の付き合いで、踏み込んだことが出来ていなかったことに悩み、助産師を辞めることも考えました。しかし「自分にできることは何だろう」と、探し勉強したとき、助産師という立場でDVや性暴力に取り組みたいと思いました。そこで大学院に入学し、助産師としてDV被害を受けている女性や子どもにどのように関わったら良いか調べ始めました。DVシェルターでも活動をさせていただく中で、多くのDV被害を受けた母子に出会いました。博士論文の研究で、DV被害の認識に良い影響を与えた助産ケアに関する研究を行った際、助産師ならではの関わりをしていく中で「この人は分かってくれる」というのが伝わると、どん底の状態になっていたとしても回復が進み、その人らしく生きていくことにつながっていくことがわかりました。人が人を産み出す現場でどう支えられたか、自分が受けた母子関係、パートナーシップに捉われていた人が変わるきっかけになりうるという助産師の可能性をさらに知ることができました。さらにこの研究を進め、DV被害を受けた女性や子どもへのより良いケアの提供につなげたいと思いました。そんな時に、研究を続けながら、助産師の後輩の教育に携わるという大学教員をやってみませんかと声をかけていただき、現在、助産師教育に携わっています。
心に残っているエピソード等について教えてください。
目の前の女性や家族が幸せに生きるためにはどうしたら良いのか、現実と助産師の理念や可能性を学生と共に考える中で、卒業近くになり学生達自身の助産観の中に私の大事にしていたことを大切にしてくれている発言や態度を見聞きした時、教員冥利に尽きるなと思います。
特に、私が初めて臨床に出た時にDVについて知らず、何もできなかった時を思うと、学生の時に、DVや性暴力、子どもへの虐待等々、様々な社会問題にも助産師として取り組むことができることに気づいてくれること、そして臨床現場で実践してくれている姿を見ると、とてもありがたく思います。学生時代には、私の臨床で働いていた頃の話をしていたのに、卒業後、助産師として働いている卒業生から、臨床での助産のエピソードを聞いたり、アセスメントや愚痴を聞いたりすると、あ〜助産師として一生懸命働いているんだなと嬉しくなります。
最初は教育に関わると、学生をサポートする立場のため、それまで産婦さんに直接関わっていたのが、妊産婦さんとの間に学生が入るイメージで離れた気がして、とても寂しく感じました。今振り返ると教員なりたての頃は、「教員はこうあらねばならぬ」と言うような考えが強く、鼻息荒く肩に力の入った教員だったと思います。その頃の助産学生は苦労したのではないかと(苦笑)。しかし、助産師教育に携わっている先輩方の姿を一緒に教育現場で働く中で拝見し、教育は学生に教え込むのではなく、学生と共に一緒に学問を楽しむ姿勢が良いのではないかと気付きました。助産師を目指す後輩と一緒に将来の助産を考えるのはとても楽しいことです。学生達が、時にはうまくいかず悩んでいる様子を見ると大変だなと思います。でもそれを乗り越え成長し、大切な想いの気づきを得ている姿は、キラキラと輝いて素敵だなと感じています。学生が助産師を目指して頑張っている姿を見ながら、一緒に助産という学問を楽しめる教員になりたいなと思っています。
助産師の活躍のフィールドは様々にあり、一生助産師でありたいと思っています。少子化の中「助産師は必要ないのではないか」という風潮も起こりうることも考えられますが、助産師ができることの可能性は本当にたくさんあります。だからこそ、助産師のできることや活動の実際、それを形にして政策にも反映させていくように活動していくことが後身の助産師の道を開くことになると思っています。 私自身は、今後も助産師を志望する学生さんと共に、母子やその家族に寄り添うより良い助産ケアについて探求できるような教育を行いたいなと思っています。
また、助産師が母子の安心安全な子産み、子育て環境を作るのも重要であり、そのためには、助産としてなにが必要か、そしていかに政策に食い込んでいくかの取り組みも大切だと思っています。助産師という母子をケアする専門家として、自律し、他職種と協働し、より良い母子への支援環境を作れる若手の教育に携わり続けたいと思っています。一人一人の学生と向き合い、時に議論し、時にぶつかり、時に笑い、と人間対人間の関わりを通して、助産学生達が将来の助産師像を描き、生き生きと活躍してほしいなと思っています。 また、研究に関しても、助産師の同志と共に全ての女性や子どもが安全で安心して暮らせる世の中を目指し、DVや子ども虐待等の研究や活動も行い続けていきたいと思っています。
助産師は、母子やその家族の傍で、その方々に必要なケアを提供しながら共に在る存在であると考えています。助産師は、かかわり次第では、その女性や子どもの人生の転換に大きな影響を及ぼすキーマンにもなりえます。また、妊娠出産産後のケアのみならず、DVや子ども虐待、性暴力等々の社会問題や、不妊治療、周産期メンタル等々、助産師は女性の様々な健康にも携わる仕事です。
また、助産師は母子やその家族のためにできることを自ら考え実践することができ、国内外での活躍ができる専門職です。いろいろな助産師としての活躍方法を模索し、様々な分野で助産師が活躍することで母子やその家族が安全で安心して暮らせる世の中をぜひ一緒に目指しましょう。